【事例紹介】世界有数の建設機械メーカー・コマツに、ETロボコンを通じた若手技術者の確保・育成の取り組みについてお話を伺いました。
近年、建設機械の電子化・高度化が進む中で、電子部品やソフトウェアの開発力強化が重要な課題となっています。コマツでは、課題に対応できる実践的なスキルを習得する場としてETロボコンを活用し、将来を担う技術者の育成に力を注いでいます。

実践から学び、チームで育つ──コマツが考えるエンジニア育成
コマツでは、ソフトウェア技術者の育成において、社内教育やOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を通じた指導を行っています。基礎力の養成から応用力の習得まで、段階的に学べる環境を整える一環として、若手エンジニアに対してETロボコンへの参加を推奨しています。現在は入社2年目の技術者たちがチームを結成し、活動に取り組んでいます。
ETロボコンを通じて育む、次世代エンジニアの姿勢と力
コマツでは、ETロボコンというリアルな課題解決の場を通じて、技術力のみならず“エンジニアとしての姿勢”を育むことを、次世代エンジニア育成の重要な要素の一つと位置づけています。
参加説明会では、参加者に以下の姿勢で臨むよう呼びかけています。
• 競技の勝敗が目的ではなく、ソフトウェアをゼロから構築する実践的な経験を積むことが重要であること。
• 過去の先輩の成果は参考にできるが、ソフトウェアは必ず自分たちで新たに構築すること。
• 技術者として成長するには、自分の担当領域に留まらず、チームメンバーの設計や実装にも関心を持ち、積極的に意見を交わす姿勢を持つこと。
こうした取り組みを通じて、チーム全体を見渡す視野と高い主体性を備え、「技術力」と「チーム力」を兼ね備えた自律型エンジニアの育成を重視しています。
ETロボコンで実践力を養う、ソフトウェア主導時代に対応する全体設計力を育成
建設機械の電子化が進むなか、ソフトウェアが機能や性能を左右する時代が到来しつつあります。 自動車業界の「SDV(Software Defined Vehicle)」の流れが建設機械にも広がり、ソフトウェアの重要性はますます高まっています。
このようなシステムの複雑化に対応するには、高度な技術力に加え、全体を見通す力が欠かせません。 しかし現場では、従来機種からの派生開発も多く、若手技術者が最初から全体設計に関与できる機会は限られています。
そこで、機械・電気・情報の各分野を横断的に理解し、課題解決を基盤とした設計・実装力を実践的に養う場として、ETロボコンへの参加を決めました。 この競技を通じて、システム全体の構想・設計を経験することで、将来的なソフトウェア主導の開発現場にも対応できるエンジニアの育成を目指しています。

技術者としての成長を後押しする3つのポイント
ETロボコンは、単なるロボット競技ではなく、ソフトウェア設計やチームでの開発を通じて、若手技術者が実践経験を積める学びの場です。
1.ソフトウェアをゼロから立ち上げる経験ができる
通常の業務では、既存のコードや設計を引き継いで開発を進めるケースが多く、システム全体を自ら構築する機会は限られています。 しかし、ETロボコンでは、仕様の理解から設計・実装・テストまで、すべての工程を自分たちで担う必要があり、一連の開発プロセスを実践的に経験することができます。 この取り組みを通じて、実務に直結するスキルが身につくだけでなく、ソフトウェア開発の全体像を俯瞰する力も自然と養われていきます。
2.設計モデルを第三者に評価してもらえる
ETロボコンでは、UML形式の設計モデルを提出し、その内容は審査員によって評価されます。 競技は単なる動作の再現にとどまらず、「なぜそのように設計したのか」「どのように動作するのか」といった設計の意図を第三者に論理的かつ明確に伝える力が求められます。 このプロセスを通して、技術者は設計の説明力や技術的コミュニケーション能力を自然と身につけ、実務にも活かせるスキルとして磨いていきます。
3.会社の代表として、他社の技術者と競い合う経験ができる
ETロボコンには、組込み業界の企業や教育機関が多数参加しており、その中で会社の代表として競技に挑む経験は、若手技術者にとって極めて貴重です。
他社技術者との交流や競争を通じて、日常業務では得がたい刺激を受けながら、自らの技術力を試す機会となります。また、成果発表に伴う責任感や、目標達成時の達成感は、技術者としての成長と自信につながっています。
ETロボコンは、開発力に加え、主体性やチーム協働力を養う実践的な育成の場であり、まさに次世代のエンジニアを育てるための重要なステップといえるでしょう。
参加した若手技術者の声から見る“実務への効果”
ETロボコンは、単にロボットを動かすだけの競技ではなく、仕様の分析から設計・実装・検証までを一貫して行う、実践的な開発プロジェクトです。
コマツでは、参加経験者への社内アンケートを実施し、ETロボコンを通して成長した若手技術者たちの実感の声が数多く寄せられました。以下に、主な学びの例をご紹介します
実務への応用力 要求分析から設計・実装までを経験することで、ユースケース記述の重要性と実践的な書き方を理解。日常業務での活用にもつながっている。
UML活用による認識の精度向上 UML図(ユースケース図・シーケンス図・状態遷移図)を仕様書に活用し、実装者との認識のズレを減少。
仕様レビュー力の向上 仕様の完成度が高まり、他者の仕様書に対しても的確な指摘が可能に。
構造的思考の定着 システム全体の構造を把握する力が身につき、次期開発への土台を構築。
設計意図の読解力強化 他者が作成したクラス図から意図を読み取り、外注成果物へのフィードバックがより的確に。
チーム内コミュニケーションの深化 打ち合わせでシーケンス図を活用する場面が増え、意思疎通の質が向上。
このように、ETロボコンへの参加は単なるスキル習得にとどまらず、「設計の本質を理解し、チームで協働する力」を養う、技術者としての成長を促す貴重な機会となっています。
リーダーの重要性に気づいた瞬間
コマツでは、ETロボコンへの参加にあたり、入社同期同士でチームを編成しています。 このような体制のもとで活動を進める中、技術的な成長に加えて、「上司の存在の大きさを実感した」という意外な気づきを得たという声もありました。
同じ立場のメンバーだけでチームを運営することで、意思決定や進捗管理に苦労する場面も多く、普段上司が担っている調整や判断の重みを改めて認識する機会となったようです。
この経験は、若手技術者にとって、組織の構造やマネジメントの役割を実感しながら学ぶ、非常に貴重な成長の機会となっています。
技術者の挑戦を、未来へつなぐ
――コマツがETロボコンに参加し続ける理由
コマツでは、ETロボコンに神奈川県平塚市の開発センターのメンバーが参加しており、今年で10年目を迎えました。これまでに5チームがチャンピオンシップ大会へ出場し、「見るべきモデル大賞」を2度受賞するなど、確かな成果も積み重ねてきました。
ETロボコンの目的は単なる競技での勝利にとどまりませんが、出場するからにはチャンピオンシップ大会を目指して全力で取り組んでおり、目標を達成したときの達成感と自信は、技術者にとって大きな財産となっています。
2024年度からは、東京本社のCTO室がゴールドスポンサーとして活動支援を開始。これにより、ETロボコンはコマツ全体の取り組みへと広がりつつあります。今年2月には、CTO室の声かけにより本社で活動紹介の機会が設けられ、若手メンバーが自ら手を挙げて登壇。走行デモも成功し、多くの社員に活動を知ってもらうことができました。
今後も「コマツにはソフトウェア技術者が多数活躍していること」と「ETロボコンを通じて技術者を育成していること」を積極的に発信し、若手技術者の成長と確保につなげていきたいと考えています。
コマツの若手技術者は、入社2年目でETロボコンを成長の場として経験し、その機会を最大限に生かして、業界を担う次世代のリーダーへと着実に成長を遂げています。