【事例紹介】【宮崎大学】企業と競い合う学生チームがロボットコンテストで得たものとは

本投稿は、ETロボコン参加チーム (宮崎大学)による活用事例のご紹介です。

世界をリードするエンジニアの育成を目的としたロボットコンテスト「ETロボコン」は、世界的にもユニークなソフトウェア重視の教育ロボコンです。
組込みソフトウェア開発を通じた分析・設計・制御モデリングおよび実装のPBL(Project-Based-Learning)機会や、初心者からベテランまで幅広い層が相互に刺激し合える場として活用する企業や高等教育機関が多く、企業に属するエンジニアと学生のガチンコバトルが行われる点も特徴の1つです。

宮崎大学 片山徹郎研究室のメンバーを中心に結成されたチーム「KatLab」は、大学での学びを実践する場としてロボットコンテストを活用しています。
「KatLab」は4年連続ETロボコンの全国大会であるチャンピオンシップ大会に出場し、ETロボコン2021では応用スキルが求められる最もレベルの高いアドバンストクラスで総合4位(学生チームとしては1位)の成績を収め、若手奨励賞を受賞しました。

2022年2月15日に行われた「ETロボコン2022開催発表会」の中で宮崎大学大学院 工学研究科1年 片山研究室 武藤崇史氏は「KatLab」での大学でのロボットコンテスト活用について発表しました。本記事ではその様子をご紹介します。

【ETロボコン2022開催発表会のアーカイブはこちら】
https://www.etrobo.jp/et2022presentation/
【競技の様子はこちら】
https://youtu.be/_CUSi8XBmpw?t=13318

過去の経験を引き継ぎつつ、新しい挑戦を続ける

宮崎大学では、ソフトウェア工学をテーマとしている片山徹郎研究室の学生を中心に「KatLab」というチームを結成し、10年以上前から継続して毎年ETロボコンに参加しています。
基本的には研究室の学生が主体的に参加しているのですが、研究室以外からの参加も大歓迎とのことでTwitterでの宣伝を見て他の学科の学生が参加したこともあったそうです。

武藤氏:
学生は「チーム開発を経験したい」「組込みに興味がある」等、様々な理由で参加しており、2021年度のチーム構成は大学院生4名、大学4年生5人の計9名でした。
「KatLab」の開発環境としては、ロボコン用の部屋に走行体(ロボット)6台や1人1台のPC、ソフトウェア関連の本があり、参加費や必要物資は研究室が負担するなどの支援体制が整っています。
「KatLab」ではこれまでの経験を引き継ぐ一方で、GitHubの導入(2018年)、アジャイル開発(XP)・CI(2019年)、リモート開発(2020年)等の新しい挑戦をし続けており、2021年は「生産性向上チームの結成」と「モデル改革2.0」に取り組みました。
この結果一番難易度が高いアドバンストクラスにおいて4年連続で地区予選を突破し、チャンピオンシップ大会へと進むことができました。

特徴的な3つの活動内容(勉強会、アジャイル開発、3チームに分けた開発)

武藤氏は「Katlab」の活動の特徴として、
①勉強会の開催 ②アジャイル開発(XP)の採用 ③3チームに分けた開発 の3つを挙げました。

①勉強会の開催

武藤氏:
チーム内の知識や技術のギャップを減らすことでチームの開発を円滑にすすめることを目的に、チームを結成して最初の2ヶ月(4~5月)に勉強会を実施しています。
参加して1年目のメンバー(大学4年生)は開発経験がないことが多いため、勉強会で1年目のメンバーの技術やスキルを引き上げることで開発が円滑に進んだのではないかと思っています。
また5月以降も勉強会は不定期で実施しています。

②アジャイル開発(XP)の採用

武藤氏:
アジャイル開発を採用し、イテレーション期間を2週間として実施しました。
また、アジャイル以外にも下記の様々なツール・技術に挑戦しています。
  C++、ShellScript、Git/GitHub、Slack、CI、UML
  Python、Google Apps Script、ZenHub、Linux、GoogleTest、デザインパターン
せっかくのチーム開発なのでGoogletest(ユニットテスト)、UMLなどETロボコンに参加していなければ学生のうちは触れていなかったようなツールを積極的に使っています。昨年は新たにデザインパターンを用いた設計にも挑戦しました。

③3チームに分けた開発

武藤氏:
主に要求定義・設計を担当する「モデルチーム」、実装・テストを担当する「競技チーム」、開発プロセスの効率化を担当する「生産性向上チーム」の3チームに分けて開発しました
活動はそれぞれのチームごとに進めていくのですが、成果物のレビューはチーム関係なく行っていました。

開発スケジュールは以下の通りです。

4月の頭には、他のチームを含めて皆で勉強会を実施しています。
5月からモデルチームにて要求・分析を開始します。

武藤氏はETロボコンの活動を通して得られたこととして、次の3点を挙げました。
①実践的なチーム開発の経験 ②企業との関わりをもつことができた ③大会での評価

①実践的なチーム開発の経験

武藤氏:
ETロボコンでは競技だけではなくモデルの評価も含まれているため、ソフトウェア開発の上流工程から下流工程までを体験することができ、大学での学びを実践する場となりました。
ETロボコンはチームでの開発ということもあり、アジャイル開発やソフトウェアテスト、UML、Git/GitHub等など個人開発では得られない経験や気になっていた技術を試す機会となったほか、チーム内での成果物へのレビューや、ETロボコン内で行われるモデル相談会、ETロボコンの大会結果からのフィードバックを通して、エンジニアとして成長することができたと思います。
また予選やチャンピオンシップ(CS)大会で他のチームのモデルやレースを見ることで、新たな学びや気づきを得られました。
そしてETロボコンへ向けてチーム一丸となって活動することで、課題解決能力の向上につながったと思います。例えば、実装の仕方が分からない際には中間報告ミーティングでレビューを行いました。
単純に競技に勝つためだけでなく、チームで開発する上で、どうすれば効率よく、自分たちに向いている開発ができるか、を考えるきっかけになりました。

②企業との関係を築くことができた

武藤氏:
ETロボコンはエントリー、プライマリー、アドバンストという難易度別の3つのクラスに分かれてはいますが、企業と学校が同じ大会に参加しているため「企業と技術で競う」という、普段の学生生活ではなかなか無い体験ができます。
ETロボコンの大会が終わった後にはチーム同士が交流する会が設けられており、そこで企業チームの開発の話などを聞くことができました。大会で他のチームのレースを観戦する中で、自分たち「KatLab」と企業チームとで「走行体(ロボット)の走行精度が全然違う!」と感じていました。そこでチーム交流会の際に「どういう風に開発しているのですか?」と質問したところ、企業チームから調整の話などの役立つ話を聞くことができました。自分たちと企業チームでの開発の違いを発見する機会となり、非常に有意義な時間でした。
また学生にとってETロボコンは多くの企業やその活動の知見が広がる場でもあると思います。ETロボコンにはスポンサー企業の他にも、参加チームとして多くの企業チームが参加しています。そのため、ETロボコンへの参加を通して学生には普段馴染みのない企業(特にBtoB企業)やその企業活動を知ることができました。企業についての理解が深められたことは、今後、就職活動をしていく上でも非常に役立つものであると感じています。

③大会での評価

大会での評価について、武藤氏は次のように語りました。
武藤氏:
ETロボコン2021 アドバンストクラスに出場したところ、九州北・九州南・沖縄地区大会では総合優勝、CS大会では総合4位(学生チームでは1位)、そして若手奨励賞受賞という結果をいただくことができました。この結果を地元新聞(宮崎日日新聞)に取材していただき、また宮崎大学工学部学部長より表彰され、活動を評価していただきました。

【表彰式の様子】
https://youtu.be/_CUSi8XBmpw?t=15902

若手奨励賞のプレゼンターである一般社団法人情報処理学会 教育担当理事 中山泰一氏は「KatLab」の受賞理由として

「企業チームの参加が多いアドバンストクラスにおいて、モデル・走行ともに企業チームに負けない結果を残したことや、研究室で継続して出場することで4年連続チャンピオンシップ大会に出場しており、毎年効率化のための新しい取り組みをしている点が素晴らしいです。

要求分析には来年度以降に再利用しやすいシステムにするといった要求を組み込み、アーキテクチャにもその意図が組み込まれていますので、今後の活躍も楽しみにしております。

2021年の大会はコロナ禍ということもありシミュレーターを使ったロボットコンテストだったのですが、シミュレーターの特性を生かした動作確認の自動化への取り組み等、今世の中で求められている開発スタイルを取り入れ、学生の模範となるような取り組みをされています。」

とETロボコン2021 チャンピオンシップ大会の表彰式にて話しました。

総合優勝を目指して企業に負けないモノづくり

武藤氏:
このようにETロボコンに取組んだことにより、ETロボコンの活動を通して実践的なチーム開発を経験し、チームが一丸となり、課題解決能力が身に着き、また企業との関わりをもつことができました。
もちろん2022年も出場を予定していますので、今後は全国大会となるチャンピオンシップ大会での総合優勝で表彰を目的に、継続参加の経験を活かして昨年以上のチームを目指したいと思っています。企業に負けないように頑張ります!

最後に、これからETロボコンへ参加したいと考えている方へのメッセージを話しました。
武藤氏:
私たち「KatLab」は自由参加で集まっているチームのため、初めの頃はモチベーションがメンバーによってバラバラで、やる気がある人もいれば、周りに流されて参加している人もいるなど様々でした。
しかし活動が終盤になるにあたって、皆モチベーションが向上し、熱意をもって取り組むようになり連帯感が生まれてきました。最後の調整段階になると楽しみながら取り組むことができて、最終的には成果物としていいものができたと思います。ETロボコンの活動は楽しかったし、エンジニアとして勉強になる良い機会でした。

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